駅に着くと、生暖かい風が吹いていた。草木が萌えている。それなのに風はいつも少しの不安になる寒気を連れてくる。たぶんこれが秋の表面の下にあるものなのだろう。

毎回同じ紺色のカーディガンを着ていた。それが自分を安心させる。けれどその安心自体も、どこかずれている気がする。安心できるということに、違和感がある。

実家の食卓に着くと、フォークを凝視してしまう。理由は分からない。フォークの歯が、じっとこちらを見ている。たぶんずっと前からそうだった。私が気づいていなかっただけだ。

窓の外にすすきが揺れている。秋になれば生えて、家族連れがやってくる。すすきの穂の色が、空を少しずつ浸食していく。土の匂いが立ち込めていて、それは自分の皮膚に合っている気がした。またこの3人かという思いが喉まで上がって、飲み込んだ。

母親が何か動作をした。それを鼻で笑ってしまう。笑った後で、やりすぎたと思う。笑い声はもう戻せない。空気に溶けて、どこかへ消えた。

気になる人はいますか、と聞かれた。分からない、と答える。本当に分からなかった。そのとき自分が、この質問に答えられないことに気づいた。私には気になる人がいるか分からないのだ。

夜になって、ベランダに出る。手すりに指を置く。空が暗くなると、自分にとっては明確に見えるものがある。月が浮かんでいる。僕たちがいなくなった瞬間からあなたは急激に成長しますよ — そんな声が風に乗ってきた気がする。自分がいなくなった後、私はどうなるのだろう。もうとっくにそうなっているのかもしれない。

月に、お前はいつになったら会えるのか、と投げかける。答えはない。さっきの窪みを私への質問箱にしよう。ベランダを後にする。