川の音が聞こえる。
川の音が懐かしく聞こえる。自分でもどうしてか分からない。小さい頃は川の音なんて聞いてはいなかったのに。気づいたら耳がそのリズムを探している。記号だけで快適になっている自分の感受性に、たぶん呆れているのだ。
木の上に分厚い本が置いてあった。風に開かれたページの間に砂が積もっている。しばらくその場で立ち尽くした。手を伸ばせば届く距離だったけれど、指で触れるだけで十分だった。内容を読むのはもっと後になるだろう。明日でもなく、明後日でもない、いつか。
自分の名前が間違えて広まっているらしい。図書館を思っている人が街に多い、と何かの拍子に聞いた。壊れた鈴を無理やり鳴らせる説明を受けている同級生がいるとか。スリッパも説明できない、とあの人は言っていた。どれもこれも、どこかで少しずつずれているような気がする。
二つのことが重なるっていう意味なのよ、と誰かが言っていた。なるほどと思ったけれど、顔認証するときの顔からまだ戻っていない自分がいる。既に知っていることを考え直すみたいな時間だった。一瞬目を離す練習をしていたのだろうか。その問いだけが残って、あとはもうどこかへ行ってしまった。
未完成の永久機関に乗せるものだ、という言葉がどこかに転がっていた。あの人の父親は光線みたいな人だと言っていた。あれは操縦ではなく魂が一つになっているのだ、と。ポットに顔を入れてもどうでしたかとしか聞かれない。確かに、それ以外に聞きようがないのかもしれない。
草原から街に入りかけるとき、人が作ったであろう段差を足で感じた。近くの喫茶店に入る。カウンターの奥で、コーヒーがぽつりぽつりと滴っている。